ヨーロッパアルプス
 ベルナーオーバーラント/ザースフェー〜ツェルマット(続き)


5/3 今日はいよいよアドラーパスを越えてツェルマット入りする日である。本来ならばツェルマットには下りずにモンテローザ小屋に入るのが効率的だが、どうせなら1本でも多く氷河を滑ってやろうと今回のフィンデル氷河のルートとなった。
 朝食をのんびりとっていた我々は、小屋を出発するのもいちばん最後となった。小屋の前からホラウ氷河(Hohlaub g.)に滑り降りシールを付ける。アラリン氷河に入るとあとはただアドラーパスに向かって真っ直ぐ登るのみである。途中、アラリンパスとフラッチホルン(Fluchthorn)とに向かうパーティーにトレースは3つに分かれる。アラリンパスに向かう人が意外と多い。
 アドラーパスに着く頃にはシュトラールホルンはガスの中になってしまい、風が出てきて寒いのですぐにアドラー氷河へ滑降を開始する。最初はかなりの急斜面で、トレース通り右にトラバースするが、エッジが充分に効くことがわかるとフォールラインに向けて慎重にではあるが快適に滑り出す。少し傾斜がゆるむともう最高の状態となった。ここの斜面は今回の山行の中でも最高に楽しい滑降を満喫した。
 そのままアドラー氷河は下りずに途中から左に向かって滑り、一ヶ所急で岩が露出している所を一旦板を脱いで下り、フィンデル氷河に入る。あとはただ板にまかせて滑るのみ。下部に行くと雪も重くなりターンもままならない。やがて取水口のような所に出て長い氷河滑降は終了。あとは谷の左岸をトラバースしてハイキングコースらしい道に出て、ハイキングの道標とトレースに導かれてリッフェルアルプ駅に到着した。駅の手前50m位まで板をはいたまま来ることができ、最後はすっかりクロカンのスノーハイク気分であった。
 ゴルナーグラード鉄道でツェルマットに出る。5年ぶりのツェルマットだ。駅に荷物を置いたまま今宵の宿を探し、その足でもう我慢ならず荷物はほったらかしで駅前のカフェに入りビールで乾杯する。

5/4 早朝宿のベランダからモルゲンロートのマッターホルンが美しく見える。本日の行程はモンテローザ小屋までなので、ゆっくりと朝食を食べてからのんびりと出発する。
 ゴルナーグラード鉄道をローテンボーデン駅で下車、出発準備をして小屋に向かうトラバース道を滑り始める。ところがすぐに雪が切れて板を背負って歩くことになる。雲は多いが天気は良く、ブライトホルン,ポルックス,カストル,リスカム,そして明日登るモンテローザがゴルナー氷河を挟んで対峙している光景は実に素晴らしい。
 トラバースが終わり氷河に下りる辺りから再び板をはく。なぜか山室さんは岩にストックをはさみ折ってしまったが、簡単に修理できて事なきを得た。下りきったところでシールを付けてひと登りでモンテローザ小屋に到着。ここの小屋は、ビールを注文するとカウンターの向こう側で小屋のお姉さんがサーバーから生ビールをジョッキに注いでくれるという山小屋らしからぬ素晴らしいところだ。まずはビールで乾杯!。リスカムを間近に望むテラスで飲む生ビールは又格別だ!。

5/5 いよいよ今回最後のピークであるモンテローザに向かう日だ。他パーティー同様まだ暗いうちからヘッドランプで歩き出す。あたりは真っ暗なのでただ前の人のトレースを追ったが、だんだん明るくなってきて周りが見え出すとどうやらディフュールシュピッツェへ向かうトレースに乗っかっていたみたいだ(実に間抜けな話だが、今日は無理をせずシグナルクッペへ向かう予定だった・・・)。途中一度軌道修正を試みたが、気がつくと再びディフュールシュピッツェの方に向かっていた。これはきっと今日はこちらへ行けという天の啓示だろう(実は内心喜ぶ。喜んだのは私だけではない筈・・・)。なんだかよりいっそう元気が出てきて?順調に高度を稼ぐ。
 やがてモンテローザ山群が望めるようになる。最高点は見えないようだが、ザッテルから4499mピーク辺りにすでに人が登っているのが見える。この時点では、既に今日の登頂は確実なものだと確信したのであったが・・・。ザッテル下の平らな雪原はヘリコプターの発着場所になっているらしく、我々がそこに着くのとほぼ同時にヘリスキーの客を乗せたヘリコプターが飛んできてやや興を削がれるが、降りてきた人々は誰も山頂に向かわないのを見て一安心(?)。
 ザッテルに着くと山頂に向かっている人の板だけがたくさん立っていた。登ってきた斜面と反対側には、本当に山頂に小屋があるシグナルクッペとツムシュタインシュピッツェがほぼ目の高さくらいに間近に見える。ここでしばし山室さんの到着を待つが、その間にどんどん上から人が下りてくる。我々が山頂に出発する頃には大分人だらけの状態となっていた。
 いざ歩き出すと山室さんの足取りは遅々として進まず、おまけにどんどん天気が悪化し出した。4499mピークに着く頃にはすっかり展望はなくなり、雪も降り始めてしまった。ここで疲労の大きい山室さんは残念ながらここまでとし、塩見さんと私はロープを結んでこの先急に険しくなる岩稜に進む。雪はますます降ってくる。細い岩稜を右へ左へとしばらく進み、雪の詰まった小ルンゼを登って上に出たところで目の前に人造構築物(山頂か?)が見えたときである。フードに雪があたる様な音がしてきたかと思ったが気にせず岩の上へ立ち上がろうとすると、その音は益々大きくなり、しまいには「ジー」という連続音になった。「雷か?」と思いピッケルを手から離して伏せると音は消えたが、立ち上がると全く同じ現象が起こる。辺りに雷が鳴っている形跡はないが、何分経験したことがない現象だったので非常に不気味で、塩見さんと協議の末、誠に残念だがここで敗退と決定し、急いで往路を戻る。ザッテルは既に我々の板と忘れ物のピッケル1本があるのみで視界もない。このまま雪が降り続いてトレースが消えたらルートファインディングが非常に困難になるのではと心配になるが、なんとか地図・磁石とトレースを頼りにモンテローザ小屋へ戻る事が出来た。
 小屋へ戻ると、いろいろな人達に山頂へは行けたのか?などと聞かれる。最初はいったい何でだろうと思ったが、どうやら天候が悪くなっても一向に帰ってこない我々は心配されていたようである。

5/6 とうとう最終日。残念ながら小雪が舞う天候である。2晩泊まったモンテローザ小屋ともお別れだ。ゴルナー氷河の下りは緩やかだが、朝なので雪面も硬く板が良く滑る。左からSchroarze.gやUnt.Theodul.gを滑ってきたトレースが合流し、小川を渡ったり岩を避けたりしながらどんどん下る。やがて氷河の末端と思われる氷が露出しているところを過ぎると谷は狭まり、そこで滑降終了。この先は滝のようになっていて、どう行くか思案していると右岸の一段高い所から先行パーティーが声をかけてきた。なるほどここを登るのかと我々も板を背負って右岸の沢をつめて一段高い丘に登るとそこからは登山道がつながっていた。天候はいつしか小雨模様になってしまったが、あとはただフーリーまで歩くだけである。いろいろな出来事があった今回のヨーロッパアルプスでの山行をかみしめるようにフーリーに向かう。フーリーに到着すると、まるで5年前の感激がよみがえったかのようであった。
 テレキャビンで下山後、今夜の宿に向かう途中にあったレストランのテラスで打ち上げをする。居合わせたノルウェー人の4名パーティーと共に盛り上がる。彼らは全員テレマーカーで(さすがにテレマークの本場?の人達だ)シャモニからオートルートを完走して来たそうだ。

5/7 飛行機の時間の関係で朝食はとらずに(とれずに)朝一番の電車でツェルマットを発ちチューリッヒに向かう。途中、入山時、全く見ることが出来なかったアイガー・メンヒ・ユングフラウのベルナーオーバーラント3山を車窓から垣間見ることが出来た。

5/8 成田着。空港まで車で迎えに来てくれた妻子に感謝。


 オートルートから5年、再びヨーロッパアルプスを滑ることが出来ました。
 今回は、前半のベルナーオーバーラントは始め天候が悪く、当初の予定を変更せざるを得ませんでしたが、結果的にはヨーロッパ最大の氷河であるアレッチ氷河の下山は決してエスケープとは言えない充実感がありました。後半のザースフェー〜ツェルマットも、スイス最高峰ディフュールシュピッツェの山頂は残念ながら逃したものの、ほぼ予定通りの行程で満足のいく山行となりました。
 特に今回はスキー登山的な要素がやや強かったと思いますが、ヨーロッパアルプスでは登山とスキーとが切り離せないものであることを改めて実感しました。長い氷河下りが多かったのと、山頂までスキーを使えないピークばかりだった分、快適に滑降できる斜面は少なかったような気もしますし、滑りにこだわればもっと面白そうなルートはたくさんありますが、日本では体験できない長大な氷河滑降と4000m峰の登頂を充分満喫出来たと思います。また、ガイドレスの行動についても前回同様特に問題はなく、かえって気軽に予定変更もできて良い面も多いと思いました。
 今回の山行で5年前の山行と合わせるとベルナーオーバーラント山群〜ヴァリス山群〜モンブラン山群が大雑把につながったわけですが(実はこれも今回の大きな目的の一つ!)、私にとってヨーロッパアルプスというものがより一層身近な、そして益々魅力的な存在になったような気がします。

コースタイム
5/3ブリタニア小屋(6:17)―アドラーパス(10:12〜10:40)―フィンデル氷河末端(12:45)―リッフェルアルプ駅(14:45)
5/4ローテンボーデン駅(10:45)―モンテローザ小屋(13:28)
5/5 モンテローザ小屋(6:17)―ザッテル(11:07〜11:57)―最高到達点(13:40)―ザッテル(15:00)―モンテローザ小屋(16:30)
5/6 モンテローザ小屋(8:27)―フーリー(11:20)


ザースフェー〜ツェルマット地形図
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