今年の夏休みは、家族3人で吾妻山麓の温泉で“湯治”する事になり、その合間に吾妻連峰の中津川に行ってきた。
7/28 7:40まだ誰もいないレークライン中津川休憩所を出発。遊歩道をたどり中津川へ降り立つ。すぐに一度左岸の林道に上がり、右にカーブして川から離れるところで再び沢に戻り遡行開始。
歩き出すとすぐに最初の悪場の白滑八丁となる。ここは凝灰岩のような岩質でU字型に浸食された谷が続く。とても美しく楽しいところだ。まるで池の鯉のような岩魚が泳いでいる。フリクションがきくので快適で、しかもへつりに失敗してもどぼんで済むので楽しくて仕方がない。
白滑八丁を過ぎて平凡な河原をしばらく歩くと魚止め滝15mになる。想像以上に巨大な釜を持っていて左岸から巻く。取水口手前のトロは左岸のバンドを歩き、最後は4m程懸垂下降する。取水口を越え銚子口辺りからは釜や淵が連続し、腰まで水に浸かったり泳ぎを交えて突破する。大きな釜を持つ滝を右から、観音滝20mも右から巻くと、また沢は平凡になり黙々と歩く。途中、大岩と呼ばれる所には左に鎖がぶら下がっている。
2時間ほど歩くと、左岸から権現沢が滝となって入り、さらに少し進むと神楽滝40mとなる。実に立派な滝だ。左岸の権現沢との中間尾根に付けられた踏み跡をたどり大高巻き。沢に戻った所は夫婦滝の手前だった。この滝も左に鎖があり、そこを簡単に登れる。次の静滝は右の小沢から小さく巻く。いよいよこの沢の核心部である熊落滝15mになる。
ここはまるで層雲峡の様な柱状節理の大岩壁に囲まれていて、熊落滝の先は右に曲がっているので見ることが出来ない。観賞するにはすばらしいのだが巻くとなるとあの岩壁の上に出なければならないかと思うと少々うんざりする。15:00高巻きを開始する。最初は踏み跡があり、それどころか針金や鎖まで付いている所もある。ところが途中から全くの薮漕ぎとなる。磁石で方向だけは確認しながら行くが、どのくらい進んだかわからなかったので、一度小沢を下って見るがまだ岩壁の途中で、さすがに末端まで行って切れ落ちた下をのぞき込む勇気はなかったが対岸の岩壁はすさまじい迫力だ。
薮漕ぎを再開してしばらくして岩壁の上に出た様子なので沢に戻ってみると15m程の壁に出てしまったので懸垂下降で降りることにするが、いざ下降をはじめると同時になんと雷と共に雨が降ってきてしまった。沢に降り立つ頃にはバケツをひっくり返したような土砂降りになってしまい下降している壁は滝と化してしまった。
びしょぬれになりながら対岸に何とかツェルトを張り潜り込む。濡れた服をしぼって一段落。夕立だからすぐにやむだろうと楽観視していたが雨足は衰えず、増水がやや心配になって時折確認していたが、小康状態に見えた水量が再び増加に転じたかと思うとみるみる間に足下まで迫ってきてしまった。正直なところこのときばかりは「もうだめか」と思ったほどで慌てて靴を履き荷物をザックに詰め込み一段高い樹林の中にかろうじて移動した。偶然人が一人横たわれる空間がありツェルトを張りなおす。沢は恐ろしいほどの濁流で先程ツェルトを張ったところはすでに水の中である。全く生きた心地がしなかった。ラジオで天気予報を聞くと、どうやらこの辺りだけの局地的な集中豪雨のようで、大雨警報が出されていた。水が濁って飲み水が得られなかったのでビールと日本酒で水分補給してラーメンをそのままかじってから睡眠についた。
7/29 翌朝、水は大分引いていてほっとしたが、まだ普段よりは多いようでやや濁っていた。天気予報では今日も大気の状態が不安定とのことなので、本来ならばもう1泊する予定だったのだが、出来れば午前中に稜線まで出たいと思い6:35出発。
すぐに大きな釜を持つ滝となるが、水流右に針金がありそこを登る。次の筋滝20mは雨具を着て水流右をシャワーを浴びながら直登。最初がかぶり気味だが後は簡単。しばらく進むといよいよ最後の滝である朱滝60mが現れる。中津川で最大の滝だけあって実に圧巻である。だが昨夜の増水でこの滝がどのように変貌したかを想像ずるとぞっとする。少し戻ってから最後の大高巻きを開始する。かすかな踏み後をたどっていくと、ここでもペンキの矢印があり、それらに導かれて急な斜面を登りきると平らで疎らな樹林帯となり、水平にどんどん歩いていく。古い道標らしきものもときどき見られる。適当に進んだ所で適当に沢へ戻ってみるとピタリと朱滝のすぐ上に出ることが出来た。これほどピタリと出られるとさすがに気分が良い。
朱滝を越えてしばらくすると幅の広いゴーロとなり、硫黄の臭いがしだすと左に噴煙をあげるヤケノママとなる。沢が西に方向を変えるともうすっかり小川となり、あとはどんどんつめて行くだけである。ガイドには途中から籐十郎方面の小沢をつめるように紹介されているが、今回はとことん本流を行くことにする。
高度差が殆どなく快適に歩いていくと、やがて稜線間近で笹が両岸から覆うようになり薮漕ぎかと思わせたが、よく見ると辺りは所々池唐の点在する湿原で、それをうまく拾うと薮漕ぎなしで凡天岩と中大巓の鞍部の登山道に出てしまった。全くこれ以上望めない最高のフィナーレとなった。あとは登山者の多い登山道を黙々と歩き、グランデコスキー場のゴンドラを使って下山した。沢登りでゴンドラを使うのはこれが初めてであった。
今回は天気が不安定で増水の恐怖を充分味わってしまいましたが、沢自体は実に見所いっぱいでのどかな沢でした。ただ登れる滝が少なく、しかも大高巻きが多くルートも不明瞭なので(以前は整備された道があったというのですが・・・)その辺りがこの沢の核心部になっているようです。下山路をどこにするかにもよりますが、つめは本流を最後までつめた方が、湿原の中を薮こぎ無しで登山道に出られるので絶対おすすめです。また、グランデコスキー場は夏もゴンドラを運転していて、しかも猪苗代駅まで無料送迎バスが走っていますので下山には極めて便利です。
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