北アルプス 針ノ木岳周辺山スキー
   〜扇沢からの沢沿い3コース〜

1998年4月25日〜27日   メンバー:平川(啓),森田(真),山室

 今年のゴールデンウイーク前半は、今までとひと味違う北アルプスをということで、針ノ木岳周辺と爺ヶ岳〜鹿島槍ヶ岳の計画を立ててみたが、冷池山荘の営業開始が直前に問い合わせてみたところ5/1からということだったので鹿島槍ヶ岳は早々にあきらめ、全て日帰り往復の予定で当日に臨んだ。

4/25 扇沢〜丸石沢往復(滑降標高差720m)
 25日は天気予報通り朝から雨が降る最悪の状態。予定の爺ヶ岳は無理なのでどうしようか思案していると、扇沢の駐車場から見える蓮華岳直下につき上げている丸石沢が下まで雪がびっしりで滑れそうに見える。上の方に滝の水流が見えるものの「ここしかない!」と思い、早速駐車場側(左岸)から偵察すると水流に阻まれたので、扇沢ロッジへ行く道の途中から試みてみたところ、ほぼ下から雪がつながっているので11:20時折小雨の混じるなか出発する。
 初めのうちは雪の上に小石や土が多く、それが解消すると今度は古いデブリの上を歩く。ようやく快適そうな斜面になり、程なく下からは随分上に見えた滝が目前になる。滝の直下は落石が多そうなので少し下の左岸からの支沢(この沢も落石が多そうで、実際登っていく途中かなり頻繁に石が落ちてきた)の上で休憩する。核心部の滝はロープを出すまでもなく右の雪がついたルンゼ状のバンドをキックステップで登れた。滝の上は傾斜が増し、つぼ足のまま登る。デブリもなく快適そうな斜面が上へと続いている。
 2020m付近で遅い昼食とビール休憩。あたりは何時しか青空も見えだし、展望が開ける。正面には今日登る筈だった扇沢が見え出すが、良く見ると1ヶ所雪が切れて水流が見えていてとても登れそうにない。やはり今年は雪がだいぶ少ないのだろう。それにしても登る前に偶然にも確認できて非常に幸運だった。
 ここから先は荷物をデポして板だけもって空荷で登る。2110mの二俣を左に入り、少し登ったところで15:00となりタイムアウト。そこから先も稜線まで快適そうな斜面が続いている。もったいないところだが雪がゆるんでいる内に下らないと危険であるうえ、滝の通過もあるので仕方がない。滑り出しはかなり急な斜面であるが、滑りやすい雪であっと言う間に滝上まで来てしまう。問題の滝の通過は、狭いルンゼをジャンプターンで確実に下りる。ちょっとだけエクストリームな気分を味わう。滝下はデブリときたない雪で快適とは言い難い。
 16:00には車に到着したが、そのころ再び小雨がぱらついてきたので、本来ならば大沢小屋付近まで移動してでベースを設営したいところだが(爺ヶ岳はこの時点で取りやめ)その場で車と横の立木を使ってタープ状にツェルトを張ってオートキャンプとなり、本日の予想外の収穫に乾杯した。

4/26 扇沢〜BC〜針ノ木岳往復(滑降標高差1220m)
 翌日は8:00に扇沢駐車場を出発。大沢小屋付近にベース設営の予定だったが、荷物が重かったのでかなり手前でテントを張ってしまった。天気も好転するということなので針ノ木岳に向かう。ベースを設営している間も針ノ木岳に向かう山スキーヤーがたくさん通過していったので、トレースがしっかりついている。
 針ノ木雪渓は、昨日の丸石沢と比べてさすがに大きく、雪もきれいだ。砂防ダムを右岸から3つ程巻くとあとは広い雪渓の底を好きなようにルートを取れる。すこぶる順調に高度を稼ぎ、針ノ木雪渓が緩く左に曲がった先でマヤクボ沢に入る。針ノ木岳直下(針ノ木峠側)のコルからの沢と、針ノ木岳とスバリ岳とのコルからの沢の分岐から傾斜がきつくなり、つぼ足に切り替え前者を登るが、腐った雪にステップを刻んで登っていくのは結構辛く、山室さんと交代でしばらく直上した後、先行者のトレースに合流・利用させてもらう。ところがすぐに一度雪が切れてしまい、ハイマツを若干漕いで再び雪の上に戻って小休止。
 目の前には素晴らしい斜面が広がり、その時はまだシュプールは一つもなかった。ところが、突然山頂からのルンゼで雪崩が発生し、スキーヤーが一人巻き込まれて一緒に落ちてくる。デブリの末端で止まったスキーヤーは暫くして立ち上がったのでどうやら生きていたようだ。 その後、続々と針ノ木岳直下のコル付近からも人が滑り始めるが、それがどんどん雪崩を誘発し、瞬く間に雪崩の跡が3条も4条も出来てしまった。その斜面に既に取り付いている人も4人ほどいたので一瞬緊張したが、人を巻き込むことはなかった。一通り落ちきったようなので我々も一部雪崩の跡をステップを切って登っていく。
 稜線に出たところで板を置いて(先ほどの雪崩を見て山頂からの滑降はあきらめる)左へわずかで針ノ木岳山頂に到着。無風快晴、展望絶佳。雪で冷やしたビールで乾杯。今までの長い登りの疲れも吹っ飛んでしまう素晴らしい山頂である。さていよいよ滑降だが、針ノ木岳直下のコルからでも最初は40度近いのではと思われる急斜面。気合いを入れて飛び込む。雪崩の跡はやや雪がしまって滑り台状態だが、それ以外は雪もまだ十分にゆるく、実に楽しい滑降を満喫できる。抜群の景観ときつい斜度、滑りやすい雪質と三拍子揃って本当に感激ひとしおの瞬間である。
 途中左へトラバース気味に行き、針ノ木岳とスバリ岳とのコルからの沢へ入る。(こちらは雪がつながっていた)ここから針ノ木岳直下のコルからの沢と合流する地点までも傾斜は落ちず、そこまでの標高差約400mはこれ以上は望み得ない素晴らしいものであった。この時既に「日帰りコースでは日本で一番素晴らしいコースの一つである」と勝手に確信した。この先も傾斜は落ちるがまだまだ快適斜面がいつまでも続く。雪渓下部も今までの余韻に浸るには充分すぎるほど快適だ。標高差約1200mの夢のような滑降を終えテントに戻ると、予想をはるかに越えた本日の収穫に祝杯をあげた。

4/27 BC〜赤沢支流往復〜扇沢(滑降標高差980m)
 翌27日は、針ノ木山頂からもよく見えた鳴沢岳直下に至る赤沢支流を登ってみる事にする。今日は最終日なので行動は昼までとし、行けるところまで行ってみようという訳だが、全く記録を見た事がない所だけに楽しみでもあり、不安でもある。
 まず最初は広い赤沢本流を登り、途中から赤沢岳山頂に至る支流を行く。ここも広く快適そうだ。地形図上の2038m標高点の上でさらに隣の沢へ移る。この沢は表面に石や土が散乱していて汚い。この辺りでようやく今日の目標の雪渓全体が見えだすが、この雪渓に入るには、その先さらに雪のきれている草付きをわたらなければならなかった。この辺りはもう少し雪が多ければ問題なくトラバース出来るのだろうが、結果としては登路としては失敗で、少し高度を下げてでも下から回り込んできた方が良かったようだ。
 これより先は傾斜がかなりきつくなるのでつぼ足に切り替え、アイゼンをはいた。ここからはただひたすらに上へ登るのみ。途中で休むところもない。10:29板をはけそうなクレバス状のくぼみに到着してそこに板をデポする。 他の2人が登ってくるまでに出来れば稜線までと思い空荷で直上するが、時間切れで稜線には至らなかった。デポ地点より上は急なので、登る場合はロープが有った方が良いと思う(特に下り)。今日はここまでと決め、正面に昨日滑った針ノ木岳の斜面と蓮華岳を見ながらビールで乾杯する。
 さていよいよ滑降に移るが、出だしは非常に急な斜面だが充分にエッジが効く雪質で慎重ではあるが大胆に滑る。この斜面は標高差250m程斜度がほぼ一定で広くて平らな1枚バーンで、おまけにシュプールなど全く無いまっさらな斜面ときているのだからもう何も言う事がない。果たして今まで何人のスキーヤーがこの斜面を滑ったのだろうかなどと思いながら完全に自己陶酔の世界に浸りきってウエーデルンをきめる(きめた気になっている)。振り返れば岩峰と氷河源頭を思わせるいわゆる“日本離れした光景”にさらに酔いしれる。ここを選んだのは完全に正解だったと実感させられる。後は往路をたどらずそのまま2038m標高点の下まで沢沿いに滑ってから右へトラバースして赤沢本流へ戻った。戻ったところで再びビール休憩。今日の成功に再び酔いしれてしまった。

 今回の山行は私にとっては北アルプスでの山スキーを再認識させてくれたと思います。私自身、以前室堂から上高地にスキー縦走した途中にいくつかの沢を滑る機会があり、よく紹介されている双六小屋周辺だけではなく、縦走路中いたるところに素晴らしい斜面が山ほどあるという事を実感してきました。そこで、逆に下から色々な沢を登っては滑って見てはどうかというのが今回の山行でしたが、これが実に楽しいものでした。しかも日数をかけて山中に入らなくても、また高価な?黒部アルペンルートを利用しなくても車で行ける扇沢から全て日帰り可能なのですから実にお買い得な山域です。また、“沢をつなげるルート”を今後実践する上でも大いに収穫がありました。
 今年は例年になく非常に雪が少なかったようですが、雪が多い年だと適期はもう少し後になる事でしょう。また、デブリが多いと今回ほど快適な滑降を楽しめないかもしれません。そういう意味では今回は天候も含めてたいへん幸運だったという事でしょうか。充実度100%の3日間を十分堪能しました。


コースタイム
4/25:扇沢ロッジ付近駐車地点(11:20)―2170m地点(15:00)―駐車地点(16:00)
4/26:扇沢駅(8:00)―BC設営(9:15)―針ノ木岳(13:40)―マヤクボのコル(14:30)―BC(15:45)
4/27:BC(6:35)―2038m標高点上(8:30)―2510m地点(10:29)―BC(12:00)


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