南アルプス 尾白川・黄蓮谷右俣

1996年9月15日〜16日  メンバー:森田(真)(単独)

 黄蓮谷はシーズン始めの計画には毎年のように入れるのだが、なぜか訪れる機会に恵まれなかった。今年も8月に計画したが流れてしまっていた。今回、偶然2日間の晴天が約束されたようなのでこの機会を逃しては!と単身臨む事にした。
 尾白川林道は終点の約1.5km手前で通行止めとなっているのでそこに駐車して林道を歩く。林道終点から急な踏み跡で尾白川に降りて遡行開始。しばらくは河原歩きが続き、残置ロープのあるナメ滝を越えてまもなく鞍掛沢に着く。この出合にある滝は残置ロープやワイヤーがあり濡れる気なら登れるかも知れないが、右岸に巻き道があり簡単に落ち口へ出る。左岸に渡りすぐ上の滝を越えたところから旧渓谷道があり、踏み跡もはっきりしていて問題はない。本流に戻るとすぐに立派な3段のナメ滝があらわれる。1段目左を登ると「フンスイ滝」の看板がある。1/25000地形図の噴水滝とは随分位置が違う。2段目からは右岸を巻くが、一部踏み跡が崩壊気味である。地形図の噴水滝の位置には小さなナメ滝があった。
 本谷を分けて黄蓮谷に入ってすぐの滝は左岸の踏み跡で巻く。千丈ノ滝はさすがに圧巻で、右からはいる坊主ノ沢の滝とともにとても美しい。右岸から巻く。8m滝は右から、坊主ノ滝も右から踏み跡で巻き、15m滝を越えると二俣に着く。左俣はこれまた立派なナメ滝で出合っていて、滝の連続で全く息つく暇もないくらいだと感心するが、実はこれから先右俣に入ると本当に息つく暇はないのであった。
 右俣に入りいくつかの滝を越えるとひときわきれいな10m滝が現れ、右のバンドを登るといきなりトイ状の滝になる。この辺がどうやら“奥千丈ノ滝”らしいと気づいたのはこの時であった。 先行の3人パーティーが右側を登っている。私は左を登る。何とか水流から離れたり戻ったりしながら出口に達するが、落ち口の少し下にある残置シュリンゲの上2〜3歩がどうしても踏み出す気になれない。どうしようか考えていると目の前に人が懸垂下降してきた。「そうか巻きか!」と思い何とか少し下りてから潅木を掴んで強引に樹林の中に這い上がった。少し登ると踏み跡があり、先ほどのパーティーが懸垂下降した所よりも先に続いている。そのまま歩いて行ったらロープを使わずに沢に下りれたが、どうやら既に奥千丈ノ滝の上であった。実はその時はもうひとつ上に見える3段ナメ滝が奥千丈ノ滝の最上段だろうと勘違いしてしまっていた。それにしてもなぜこの3つの滝をまとめて「奥千丈ノ滝」などと言うのか甚だ疑問に思ったが答は後でわかる。
 奥千丈ノ滝上も滝が続き、2つほど快適に越すと幕営した跡がありそこで昼食とする。この辺はもう沢全体が急傾斜で、滝の数など数えるのは全く無意味にも思える。それがいつまで経っても尽きる事がない。とにかく上へ上へとひたすら登るのみである。烏帽子沢を分け、インゼルらしい地形を過ぎたところで絶好の幕営跡を発見する。時間的には今日中に山頂まで出られそうな気もするが、いつしかあたりは雲の中になってしまい明日の好天を期待する事にしてテントを張る。夕方、ガスの切れ間にこの先まだまだ滝が連続しているのを垣間見て益々期待感は募るのであった。
 翌16日、快晴。雲海の上に八ヶ岳が浮かんでいる。朝食をとり気を引き締めて出発。滝をふたつ越すと奥ノ二俣である。左俣へ入るのだがいきなり直登不能なナメ状の滝で、まず右俣を少し登ってから踏み跡をたどって左俣滝上に出る。その先はすぐに三段の滝があるが、一段目は右の支沢から巻き、二段目も右から踏み跡で巻くと三段目の滝の中間に出た。バンドで瀑心を渡り左壁に取り付く。途中残置シュリンゲがある所は本日唯一緊張させられた。これを越えるとようやく辺りは源頭らしくなり、傾斜は一段ときついが、草付きには黄色い花がたくさん咲いていて一息つきたくなる。黒戸尾根を歩く登山者が見える。ルートを右へ右へととり、青空に向かってのびているルンゼをつめると鋸岳に続く踏み跡に合流し、目の前に山頂があらわれる。
 甲斐駒ヶ岳の山頂はたくさんの登山者で賑わっていた。快晴の中、冷たい水割りで祝杯をあげ、素晴らしい展望を堪能して黒戸尾根を下りる。五合目から尾白川への下りは途中から不明瞭?で適当に下りる。この道の途中、遡ってきた黄蓮谷が見える場所があるのだが、ここから見るといわゆる“奥千丈ノ滝”と呼ばれている部分があたかも一つの大きな滝のように遠望出来るのである。なるほどこうしてこの名が付いたのかとここにきて初めて納得してしまった。あとは尾白川本流を下降し尾白川林道へとひたすら歩いた。

 黄蓮谷は、実際登ってみると水流沿いに直登出来る滝は意外に少ないのですが、全体的に急傾斜で一気に本当に頂上直下に突き上げている豪快さは全く他に類をみない見事さです。明るい谷で、青空の下、直接山頂に達する気分はまさしく最高です。また、今回は尾白川林道から入渓しましたが、黒戸尾根5合目から下って入渓するのと比べると、時間的にも有利であり、遡行距離も長くなり楽しみがふえるなど利点は多いですが、なによりも「谷から山頂へ」という一つの沢登りの完成度が格段に高まることは間違いないのではないかと思いました。


コースタイム
15日:車(6:47)―鞍掛沢出合(7:46)―黄蓮谷出合(8:45)―二俣(10:08)―幕営地(13:40)
16日:幕営地(6:48)―甲斐駒ヶ岳(8:40)―5合目(10:26)―千丈ノ滝下(11:22)―車(14:18)



遡行図
このページのトップへ

1996年の記録へ