1994年3月19日〜21日 メンバー:阪上,高橋(英),高橋(直),平川(啓),森田(真)
上野駅21:23発寝台特急「鳥海」で登山口である五能線・陸奥黒崎へと向かう。寝台列車はとても快適である。朝目覚めると天気は快晴。五能線に乗り換えると遠く真白い白神岳が見えてくる。
9:09陸奥黒崎駅に到着。天気は相変わらず雲ひとつない快晴だが、困った事にあたり一面雪などひとかけらもない。前途に不安を感じながらスキーを担いで車道を歩き出す。しばらく歩くとようやく雪がつながりそうなので板をはくが、林道終点まで行く間に何度か雪がきれて板を脱がなければならない箇所があった。
登山道に入ってからは最初の小ピークを越えるのに一度板を脱いだが、あとは蟶山の下までシールで歩けた。問題の蟶山の急斜面の濃い樹林の中をつぼ足で強行突破すると後は緩やかな尾根の登りとなる。ここまで来るとぶな林もかな立派になり気分がよい。天気がよいのでなおさらである(まるで5月の陽気だ)。おまけに振り返れば日本海である。森林限界を越えるとる一面に日本海が見渡せる。陽もだいぶ傾き(相当時間がかかっている?)海面が太陽の反射できらきら輝いて美しい事この上ない。
稜線直下から念のため赤旗を立てながら登ったが、これがあとで大いに役に立つ事になる。稜線に出るとほんの一足で避難小屋に到着。荷物を置いて目の前にある白神岳山頂を往復する。天気はあいも変わらず無風快晴でヤッケ無しでも居られるくらいであった。山頂からは白神山地の山々のすぐ向こうに岩木山が大きく、遠くかすかに八甲田山が望め、日本海は益々傾きを増した陽光にさらに輝きを増している。それにしても海が近い。鳥海山から見た日本海も素晴らしいが、白神岳からのそれは勝るとも劣らない。
避難小屋は3階建てだが小さく、我々の寝た2階は天井が低くて立ち上がる事が出来ない。コンロをつけると天井から凍っていた水がポタポタと落ちてきたがしばらくすると乾燥して落ちてこなくなりほっとした。日本海への日没を見ようと思っていたのだが、そのまま夕食十宴会になってしまったので忘れてしまったのは非常に残念なことであった。
翌朝は昨日の晴天が嘘のように天候が悪く、赤旗をたよっての下山となる。本来ならば日本海に向かっての大滑降になる筈だった無木立斜面も今日は上部は赤旗をたよりにシールをつけたままそろそろと下り、途中からやや視界が効いてきたのでシールをはずし細い尾根を慎重にではあるが快適に下る。ここは登りで海がきれいに見えたところだけにもったいない。晴れていればさぞかし気持ちいいだろうに。
ぷなの樹林帯にはいると昨日とはうって変わって霧氷の林である。心配だった雪質も尾根の北側は結構良く、“縦横無人”とはいかないまでもまあそこそこに林間滑降を楽しめた。それにしても登りでも感じたがこの辺りのぶな林は大層気分がいい。
しばらく降りるとアップダウンが頻繁にあるのでシールをつけて滑降する。蟶山で再びシールをはずし、核心部の急斜面へ入る。横林の薄いところを選びながら日本海に向かっての大滑降である。大滑降といっても横滑りとキックターンがすべてである。とても‘快適’などとは冗談にも言えたものではないが、下の登山道に出たときは言い様のない満足感(?!)があったかもしれない。雪質さえ良ければ最高にスリリングな樹林間滑降を楽しめそうな斜度と樹間であったが、今回のような悪雪でも板をはずさずに降りてきたのだから内容的には充実していたに違いない。
あんまり充実していたのでそれから先は滑りへの固執が全くなくなり、陸奥黒崎駅まで板をかついで歩いて下った。駅でビールで乾杯し、黄金崎不老不死温泉のある舵作駅へ向かうべく五能線に乗り込んだ。
今回の白神岳は、山スキーとしては決して快適なものではなかったが、無風快晴の白神岳山頂できらきら輝く日本海を見れただけで充分満足のいくものであった。そもそもこの山は余程条件がそろわない限り快適な山スキーなど望めないのではないか。むしろスキーを利用して広大なぶな林を擁する白神山地の一端に接することが出来たという事に満足すべき山行だと思った。
追記:下山後の宿となった五能線・鷺木駅は日本で最も優れた無人駅のひとつであると断言できます。機会があったら是非一泊することをおすすめします。
なお、帰りは青森経由で特急、新幹線を乗り継いで帰りました。
地形図